櫻〜風華抄〜(中編)

今日は仕事には行かなかった。大学にももちろん行ってはいない。
所用があると坂下にも言って、篤志は縁側から庭をにらむように昼過ぎから胡座をかいて座っていた。一人暮らしをするには少々広いその一軒家には篤志以外には炊事洗濯をするメイドが一人通っているだけだった。そのメイドも夕方には帰る。日が傾きかけた今、家の中にいるのは篤志ただ一人だった。
櫻が来るのは夜半過ぎだと言っていた。だが、もしかして、万が一早いかもしれないじゃないか?
そう思うと篤志はその場から動くことができなかった。
夕べは櫻を見失ってしまった。だから今日、櫻が来ると信じるしかない。
実際俺は櫻がどこの誰だっていいんだ・・・。
美しくもはかなく、物悲しげな少女。彼女が自分のもとにいてくれるというのなら、どんな難関すら打ち砕いて彼女と人生を共にする。
篤志は心の内に固く誓っていた。
日はどんどん沈み行く。壁掛けの時計をちらりと振り返ると、もうすぐ6時を指そうとしていた。
「少し・・・飲むか・・・・。」
やはり、夜半に来るといったら夜半に来るのだろうな。
少し焦って構えすぎていた自分に失笑し、篤志は台所に向かって酒とつまみを取りに行った。
男子厨房に入らず。
家訓ではないが、それに従って篤志は自分では炊事も洗濯もからっきしである。だが、酒を嗜む篤志のために台所には常に酒の肴になるようなものが何かしら用意してあった。
『坊ちゃんは塩辛か魚の甘露煮があればいいお人ですから』
メイドがいつもそう言って用意していってくれる。
今日は塩辛にするか。
小皿にそれをとり、酒とぐい飲み、箸を添えて縁側に向かった。改めて胡座をかき、夕暮れに赤く染まる庭を眺めやる。
ふと、ある一点で目が止まった。
「・・・・・櫻・・・・・・。」
いつの間に訪れたのか。庭の枳殻の下。ひっそりと薄紅の着物に身を包んで櫻は立っていた。篤志の視線を感じると深々と頭を下げる。
もう酒どころではない。篤志は慌てて立ち上がると縁側の下の突っ掛けを履いて櫻を出迎えた。
「夜半過ぎだといっていたからまだだと思ってた・・・。」
そういいながら目の前に立つと櫻ははにかんで目を伏せた。
「待っておられるかもしれないと思って・・・。」
「もちろん待っていたさ。さあ、入って。」
慌しく中へと櫻を招じ入れる。誰の目にも触れさせたくはなかったし、一時も離れていたくはなかった。ぴったりと身を寄せ合うように奥の和室へと入ると、篤志は部屋の襖をぴったりと閉めた。
「櫻・・・。会いたかった・・。」
その華奢な体を激しく掻き抱く。櫻の甘い香りが鼻腔を擽ってなんともたまらない気分になる。どうしようもなく劣情を掻き立てられてしまうのだ。
「篤志さん・・・。」
櫻が自分を呼ぶ声が切なげで愛しい。
篤志は迷わず櫻を畳の上に押し倒し、唇を重ねた。
「あ・・そんな・・・・。」
身じろぎする体を押さえつけ、抱き込んで激しく口付ける。柔らかい唇を啄ばみ、舐めさすったかと思うと深く舌を潜り込ませて粘膜の隅から隅までをたっぷりと味わう。甘い唾液を啜ったかと思うと縮こまる舌を絡ませて舌の裏まで弄ってはその体が細かく震えるのを楽しんだ。
「櫻・・。欲しい・・。」
耳元で囁きながら性急に帯を解きにかかる。
「あ・・だめ・・だめです・・・。」
帯にかかる櫻の手を巧みによけながらするすると帯を外し、着物の前を寛げると白い雪肌が露わになった。浮き出た鎖骨。見た目からはわからない豊かな胸の谷間。
兵児帯はわざと外さない。そのまま胸元を広げて乳房を空気に晒す。
なんと・・美しい・・・。
そんな美人画の美女もこれほど瑞々しくも美しい肌は持ってはいまい。こぼれるほどに豊かな胸もぴんとした張りを持って天を向いている。
「ああ・・いや・・・。」
頬を真っ赤に染めて櫻が顔をそむける。その顔を無理やりこちらに向かせて瞳を覗き込んだ。
・・・?
一瞬その瞳が真っ赤に染まっていたような気がして篤志は息を呑む。だが、瞬きをしたその瞳はすぐに漆黒に変わり、潤んで篤志を見上げた。
気のせいか・・。
先ほどの夕焼けの赤がまだ己の目に残っているか。そんな風に思いながら篤志は櫻に口付けた。口付けの合間、豊かな黒髪を撫でる。
「櫻・・本当にいやか・・?俺のことが嫌いか・・?」
子供をあやすように、いとしむように髪を撫でながらそう囁くと櫻の瞳が困惑に揺れた。
「でも・・私は・・・。」
伏せた瞳を覗き込むように顎を上げさせ、顔中に接吻を贈る。
「君がどこの誰でどんな女でもいい。俺は君を愛してるんだ。」
「・・・・篤志さん・・・・。」
視線はずいぶん長い間絡み合った。
どちらにも譲れないものがあり、得たいものがある。
そして・・・櫻の瞳の裏側に、孤独に満ちた何かが不意に流れた。その瞳を閉じ、篤志の頬にそっと指を触れ、その頬から首筋までをそっとたどる。その指先の感触にわずかに震えを感じながら篤志は櫻の頬に口付けた。
「篤志さん・・・。一度だけ・・抱いて・・ください・・・・。」
「一度だけなんて!そんなことができるもんか。俺はこれから君を離さない。」
「でも・・だめなんです・・・。私はあなたを殺してしまう・・。」
櫻の悲痛な瞳に篤志の喉から慟哭が迸った。
「だめなものか!君に殺されると言うのなら本望だ!」
「あ・・・篤志さん・・・。」
後は激情に従うのみ。
腕の中の細い体を掻き抱き、篤志は貪るようにその白い肌に口付けた。

白い雪肌に咲く鬱血の花。それはまるで飾りのようによく映えた。
「あ・・ん・・。篤志さん・・。」
豊かな胸を揉みしだき、その先端に口付けて舌でいたぶる。ぷるぷるとしたその感触はすぐに硬いこりこりとしたものに変わり、どんどんその硬さを増していく。感度のいい体は面白いほどに反応し、その肌を徐々に紅く染めていく。
「櫻・・・櫻・・。」
狂おしいほどに名前を呼び合いながら愛撫をかわす。丁寧に柔肌を舐めあげ、乳首を吸う。指でこりこりと摘めばかわいらしい嬌声が上がり、その背中が撓う。
着物の裾を寛げて滑らかな内股を撫でると恥ずかしげに瞳を伏せる。しなやかにすらりと伸びた足を指でたどり、足袋に覆われた踝から徐々に丁寧に舐め上げる。膝頭を舐めればすすり泣くような声が響き、そこから徐々に太腿に上がればいやいやと髪を振り乱す。
柔らかい内股を擽るように舐めると、徐々に濃厚な雌の香りがすぐ傍から漂い始める。まだ着物に隠れたそこは、身を捩り、足を動かすごとに香りを強め、ともすればくちゅ・・と言う淫猥な音すら立てていた。
だが、肝心要なそこには決してまだ触れない。徐々に喘ぎ声が切羽詰ろうとも太腿を舐め、甘く噛み、胸に指を、舌を這わせるのみで。やがて、その喘ぎがすすり泣きに近いものへと変わる。切なさが頂点に近づいたのだろう。
長く執拗な愛撫に息も絶え絶えな櫻を残し篤志は立ち上がると、すでに暗くなり始めた部屋に行灯をともす。柔らかい行灯の光の中、櫻の姿が浮かび上がり、美しさに淫靡な艶をも齎した。
その櫻の艶姿にごくりと生唾を飲み込みながらもその部屋を出、縁側に向かう。
「あ・・・篤志さん・・?」
残されることに不安を覚えた櫻の声が背中に聞こえる。だが、縁側で酒とつまみを回収すると、篤志はすぐに戻った。襖を開けると、胸元で着物を掻き合わせた櫻が横座りに座り、高潮した頬を押さえている。持っていた酒とつまみを部屋の端に置くと篤志は櫻の傍に腰をおろした。
「誰がもう終わりだといった?」
意地悪くそういうと櫻は頬を染めて俯く。
「でも・・・どこかにいかれたようだったから・・・。」
かすれたその呟きは欲情に濡れていた。それを感じて篤志はにやりと笑うと櫻を引き寄せ、着物を剥ぎ取るように背中を露わにした。
「あ・・・。ぁは・・・。」
豊かな黒髪を脇に寄せ、その滑らかな背中に唇を寄せる。それだけで櫻が息を潜め、わずかに喘ぎをもらすのを聞き逃しはしない。
「櫻・・・体の隅から隅まで俺が確かめてやる・・。それが俺が知る君の全てだ・・。」
「あん・・ぁ・・篤志さん・・。」
背骨から肩甲骨をたどり、腰骨にいたるまでを丁寧に舐める。そうしながら両手は前に回り櫻の豊かな胸を揉みあげる。徐々に力が抜け、櫻の両手が畳につき半ば寝そべるような状況になっても篤志は背中を舐めることをやめなかった。
「ぁん・・あ・・篤志さん・・あ・・・・」
喘ぎ声の間に名前を呼ばれる。やがてその喘ぎは切なさを伴ったすすり泣きに。
篤志は女を抱いた経験は決して豊富ではない。だが、こと櫻に関してはゆっくり、じっくり感じたい。その思いが執拗な愛撫に現れていた。
そして、その手がようやく核心に触れようとする。
くちゅ・・・
「櫻・・もう溢れてるよ?」
驚きを含んだ声に恥ずかしさに瞳を伏せる。
太腿から内股へと指を潜り込ませた瞬間。篤志の指はねっとりとした感触に包まれたのだ。そのまま隠された茂みへと指を移そうとすると淫靡な水音が薄暗い部屋の中にかすかに響く。
「ぁ・・ああ・・・恥ずかしい・・・。」
そう言いながらももはや抵抗はない。しとどに溢れた液でねっとりと張り付いた薄い茂みを軽く撫で、割れ目に指を潜り込ませると火傷しそうなほど熱く濡れた感触が篤志の指を包み込む。
「あ・・ん・・ふ・・・。」
見たい・・。
不意に衝動が胸を突き上げた。身を起こし、櫻の両足を掴む。
「あ・・篤志さん・・やめて・・・。」
櫻の制止の声など耳には入らない。もとより力が入らず抵抗のしようもない櫻の足を掴んだままぐいと左右に押し開き、両の足首を太腿に押し付けるようにして開いたまま行灯の光に秘裂を晒す。
「ああん・・あ・・いやぁ・・。」
恥ずかしさに櫻が顔を両手で隠す。だが、その秘裂のなんと美しいことか。まるで桜の花びらのようにしっとりと咲き乱れ、楚々としていながらも艶を持って震えている。
「櫻・・綺麗だ・・。」
そう呟くのと、濡れた秘所に口付けるのはほぼ同時だった。
「あ・・ああんっ!!」
じゅ・・じゅる・・・ちゅう・・・・れろ・・ぴちゃ・・・
こんこんと湧き出る泉のように後から後から湧き出す淫らな液を舐めとり、啜り、いたずらに広げながら襞を舌で弄る。
面白いことに、つんととがった肉芽がどんどんと硬くなり、大きく膨らんでいく。それはまるで花の蕾がどんどんと綻んでいく様のようでもあった。
「櫻・・美味しいよ・・。」
「いや・・・そんな・・言わないで・・。」
羞恥に熱を帯びた肌が薄暗い光の中汗を浮かべて光らせる。まだ春の夜は肌寒いくらいのはずなのに、部屋の中は異様な熱気に包まれ、むんとした性臭が漂っていた。
襞の入り口にぴたりと唇をつけ、じゅるじゅると蜜を吸いたてる。その音と感触に悲鳴をあげ、弱弱しくも首を振りながら櫻はさらに蜜を溢れさせた。
「あん・・あ・・・ひ・・・ああんっ・・。」
もっと感じさせたい。もっと弄りたい。
篤志は恐る恐る櫻の襞に己の人差し指を滑り込ませた。
熱く柔らかい襞が心地よくその指を締め上げる。引っかかる襞はなかった。だが、そのことに不思議と失望を覚えることはない。
操などどうでもいいのだ。今、櫻が自分の腕の中にいさえすれば。
くちゅくちゅと中をかき混ぜながらますます硬く大きく膨れ上がった肉の芽を唇に含み、ちゅうと吸い上げる。すると声にならない悲鳴をあげて櫻の背がのけぞった。
「はう・・ぁああっ!」
どうやらこれがいいらしい。ますます勢いづいて指を増やし、じゅぼじゅぼと中を掻き乱し、出入りを繰り返しながら肉の芽を舌で舐め、柔らかく、激しく吸いたてて時折唇で揉み解す。空いた片手はのけぞる胸元に伸び、豊かな胸のほんの先端を弄ってさらに鳴かせる。
「ああ・・ぁ・・・篤志さん・・私・・もう・・もう・・・。」
櫻の目尻から涙が溢れ、ゆるゆるとその首が振られる。豊かな黒髪は畳に散り、波を作ってうねる。
限界を訴える櫻に、篤志は無言のままにますますぐちょぐちょと指の出し入れを激しくし、乳首をこりこりと痛いほどに摘み上げた。舌で大きく肉の芽を舐めた後、これでとどめとばかりに肉芽を吸い上げる。
じゅる・・じゅうっ
「あ・・は・・ああんっ・・あ・・あああっ!!!」
ひときわ高い嬌声を上げたかと思うと櫻の背が激しくのけぞり、その体ががくがくと震える。
どぷっ・・・
濃い液が襞から溢れ、篤志の顔を汚した。
「櫻・・・。」
手の甲でぐいと顔をぬぐい、その裸身に覆い被さる。もうこれ以上、我慢はできそうになかった。
ず・・ずちゅうっ!
「はぁあっ!あんっ。」
殊のほか柔らかく伸縮性に富んだ襞が篤志の男根をやわやわと、それでいて隙なく締め付ける。その心地よさに、奥まで行き付いた途端に思わず出してしまいそうなほどに。その射精感をぐっとこらえ、一度櫻をしっかり抱きしめた後、ゆっくりと腰を動かす。
「あふ・・あん・・・ふ・・ぁあ・・・。」
耳を打つ心地よい喘ぎが。触れる滑らかな肌が。首筋に触る甘い吐息が。全てが篤志を頂点へと誘おうとしているようだった。
濡れた襞は容赦なくうねり、締め付け、時に擽るように男根を責め上げる。腰を進め、抱いているのはこちらなのに弄られ、導かれているような気さえする。だが、そんな感覚をどこかに追いやってしまうほどの快楽が容赦なく襲ってくる。
ぐちゅ・・ぐちゅ・・ぐちゅ・・ずちゅ・・・
「篤志さん・・あん・・篤志さん・・。」
「櫻・・櫻・・。」
交わされる名前。
混じる吐息。
「もう・・だめだ・・。」
「ああ・・私・・私も・・・。あ・・あああっ」
「くぅうっ!」
緩やかな時の流れの中。その感覚は唐突に訪れ、そして静かに引いていった。
吐き出した白濁がまだつながった部分からとろとろと溢れて畳を汚していく。
「愛している・・・。」
囁いたのはどちらだったか。抱きしめたのはどちらだったか。

「明日は、会えるか?」
着物を着付ける櫻にまあだ半裸の状態で篤志は尋ねた。
いつまで会える・・?
本当に聞きたいのはそれ。
「・・明日まででしたら・・何とか・・・。」
「なんだって!?あさってからは会えないと言うのか!?」
激しい口調の篤志に対して櫻は静かに帯を締める。
しゅる・・しゅ・・・・
帯と着物が掠れる音が響く。手馴れたように帯を結びながら櫻は口を開いた。
「あなた様のために・・・明日を限りに会わないほうがいいと申し上げているのです・・。本当なら・・・今日だけのつもりで・・・。」
「まだそんな戯言を。俺はそんなことは気にしないと言っている。殺せるものなら殺せばいい。神が俺を殺したとてこの気持ちは変わらない!これを限りなんて許さないからな。」
激しい口調の篤志に櫻は寂しげに微笑んだ。
「そのようなこと・・おっしゃいませぬよう・・。篤志さん・・あなたをお慕い申し上げるからこそ・・。」
帯を調え、帯止めを締めて立ち上がる櫻の手を篤志は掴んだ。
「篤志さん・・。」
「愛しているんだ・・。」
黒い瞳が篤志の言葉を飲み込み、寂しげな笑みを浮かべた。
「愛しています・・。」
「明日、会えるな?」
少し考えた瞳が一度伏せられる。だが、すぐにあげると悲しげな笑みを浮かべた。
「・・・・はい・・・・。明日は・・・必ず・・・・。」
余りにもはかないその約束に縋りつくように篤志は櫻を抱きしめた。腕の中の存在感が徐々に薄くなるような辛さを感じながら。
「そろそろ・・行きますね・・・。」
「ああ・じゃあ・・・また・・・。」
そっと腕を解き、軽く一度だけ口付けると、櫻を玄関まで見送る。
「・・・・・くそっ。」
櫻が最初の曲がり角を曲がってすぐ、篤志は走った。
このままで終わらせてなるものか。
もし明後日からがないとしたら俺は狂って死んでしまう。
だが。
「・・・!?そんな馬鹿な!?」
曲がり角の後のただひたすらまっすぐな道。やはり、櫻の姿はどこにも見当たらなかった。

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