クリムゾン レイヴ15

傷つくことが怖いですか?
傷つけられることはもっと怖い。
守れないことは何よりも怖い。
だから人は、強くなるのです。

草木世の離れは客人がくつろげるように贅沢なつくりをしている。
6畳の和室が二つ。そして、檜の風呂にトイレまでが完備してあった。まるで、鄙びた温泉宿のように静かで、落ち着いている。
漣が遙を伴って和室に入ると、すでにそこは暖房が入っていた。
「やっぱ外は寒いよな。」
軽い口調で言いながら続きになっている隣の和室への襖を開け、漣はしばらく固まった。
「え・・・と・・・・。」
ぎこちなく後ろを向くと、遙が恥ずかしげに俯いている。
隣は寝室として利用するのが常なのはわかっていたが、いざそこにすでに布団が敷いてあるとなるとなにやら気恥ずかしいものがある。
・・・今更・・・童貞でもないんだけどな。
そう思っても緊張を隠せない。遙に背を向けたまま指で軽く頬を掻くと、漣はコートを脱ぎ、畳の上に軽く放った。
「風呂・・・入って来いよ。」
かすかに震える声で言うと、遙は素直に頷いた。
「・・・ん・・・。」
後ろから遙の気配が消える。
「はぁ・・・。」
大きく息をつくと、漣は畳の上に膝を抱えて腰を下ろした。
「こういうんじゃなく・・・したかったよな・・。遙とは・・・。」
操を抱くのともまた違う。普通に。本当に普通にデートから始めたかった。きっと、遙もそう思っているだろうと思うとなんだかやりきれなかった。
「ごめんな・・・。」
水音がかすかに聞こえる浴室の方に向かって呟くと、漣は襖にもたれて瞳を閉じた。

「・・・やっかい・・ね・・。」
いつもではありえない強力な結界が草木世の屋敷を包んでいた。瘴気を抱えるものはその内には入れない。操は軽く舌打ちをして重厚な門を見上げた。
表情は正気そのものだが、その瞳は暗く澱んでいる。黒い皮のぴったりとしたワンピースに身を包み、太腿までの黒い皮のブーツをはいている。スカートの丈は短く、少し屈めば尻が見えそうなほどで。胸元も大きく開き、その胸の谷間がしっかりと見えていた。
「・・結界の軸を壊さないと仕方ないわよね?」
操が問い掛けると後ろに黒い影が立つ。長身の黒ずくめ。
「そうだな・・。」
低い声で答えると、男は目を細めた。その様子に操は面倒臭げに髪をかきあげ、左右を確認するように見る。
「斎は向こうをお願い。手分けした方がいいわ。そうじゃないと事が終わっちゃう。」
中で何が行われているのかを知っているのか。操の声は非常にいらついたものだった。
「焦るなよ。焦るとろくなことがない。」
「わかってるわよ。」
斎の忠告にもいらいらと答えると、ぶん・・とその影が歪む。
「じゃあ、また後でね。」
そそくさというと、操の影はそのまま薄らぎ、やがてその姿は消え去った。
「・・・・ああ・・・・。」
無表情な中に苦味が残る声。そんな声を残し、斎もまた姿を消した。

「漣・・・。」
どれくらいの時が経ったものだろうか。仄かに匂い立つ石鹸の香りと、遠慮がちにかけられた声に漣は其方を向いた。浴衣を羽織り、ひっそりと入り口付近に立つ遙の姿に慌てて立ち上がる。頬が上気しているのは風呂のせいだけではないだろう。僅かに俯いて、遙は静かに部屋に足を踏み入れた。
「・・・じゃあ・・俺も入ってくるわ。」
隠せない緊張を滲ませて取ってつけたように言う漣の腕をすれ違いざま遙が取った。
「遙・・。その・・座って、待ってろよ。な?」
「漣・・・一人にしないで・・。」
宥めるように漣が遙の肩に手をおくと、その肩は細かく震えていた。見上げる瞳は潤んでいる。
「だけどさ・・。」
戸惑う漣の胸に飛び込んで遙は瞳を閉じた。服越しに温もりが漣に伝わり、石鹸の香りが鼻腔をたまらなく擽る。
「漣・・・。」
瞳を閉じたまま、遙が顔をあげた。
「待っているのが・・怖いの・・・。」
愛しさがただ、胸を突き上げた。自然と遙の頬に手が触れる。
「遙・・・。」
吸い寄せられるように口付け、再びめくるめくエネルギーの奔流に身を捕らわれながら漣は覚悟を決めた。遙を横抱きに抱えて布団に運び、そっと横たえる。
「遙・・・。」
名前を呼びかけると閉じたままの睫がそっと震えた。不安なのか、唇をきゅっと引き締めている。その遙にゆっくりと覆い被さると頬に軽く口付け、まだ濡れたままの髪を撫でた。
「遙・・。ごめん・・。」
漣の言葉に遙がその瞳をそっと開いた。
「どうして・・・?」
震える声が問い掛ける。
漣は、ゆっくりと髪を撫でながら苦い笑みを浮かべた。
「いや・・こんなんじゃなくてさ・・・。もっと普通に・・・デートとかして・・で、ちゃんとある程度期間置いて・・とかさ。普通だったらそんな風にしてあげられるのになと思って。」
漣の申し訳なさげな言葉にくすりと笑ってその頬に触れる。
「漣。好きって言って。」
「え・・。」
唐突に要求に妙に気恥ずかしくなっててれた表情を見せる漣に遙は、真剣な表情をしてさらに言い募る。
「ねえ。言って。好きじゃないなら言わなくていい。でも、好きなら言って。」
「・・・・・・・好きだ。」
ぼそっと言って顔を紅くする漣をぎゅっと抱きしめると、遙は嬉しげにその耳に囁いた。
「これだけで、100回のデート終わり♪」
「・・・え・・・?」
「漣が好きなの。だから、漣が好きだって言って・・・あたしを抱いてくれるのなら・・それで十分なの・・。」
漣を抱きしめる腕に力が篭る。その密着したからだから、細かい震えが伝わってきた。
「全部・・・何もかも終わったら、そしたら、デートしようね。約束。」
最後にきゅっと抱きしめて体を離した遙は優しく微笑んでいた。
情けねえ・・・。
遙に気を使わせてしまったことに苦笑して、漣は優しくその細い体を抱きしめた。
「好きだ・・・。まじで、好きだ・・。」
『好き』ってこんなに陳腐な言葉だったっけ?
思わずそんなことを考えてしまうほどにその言葉はあっけなく、頼りなく、そして漣を不安にさせた。本当に伝えられているんだろうか。言霊は、篭っているんだろうか。
その答えも、やはり遙が持っていた。遙の瞳から零れた涙が、その喜びを如実に表していたのだ。
愛しい・・。
それに突き動かされるままに二人はお互いの唇を貪った。

屋敷の西側の塀に斎は来ていた。
盛り塩と札がある。言霊ではる結界を強化してあるらしい。右手から刃を出し、札に突き刺そうとする。
「勝手なことをされては困りますね。」
藤色の和服をその身に纏った美女、由美子が知らぬ間に佇んでいた。凛とした表情で斎を見やり、うっすらと笑みすら浮かべている。
「・・・確か草木世の・・・。」
僅か怪訝そうな表情を浮べ、目を細めると由美子を見て薄い笑いを浮べる。
「俺を止められると?」
その言葉に由美子は緩い笑みを浮かべる。
「やってみなければわかりません。」
「・・・じゃあ、始めるか。巫女を得られては困るんでね。」
「ふふ・・・。」
二人の激しい視線が交錯し、そして、瘴気と気が激しく巻き起こり、ぶつかり合った。

そして屋敷の東側・・・。
すでに、二つの存在は対峙していた。激しい火花を散らせて。
「英・・。あたしの邪魔をするの?」
シニカルな笑みを浮かべて問う操に英はそ知らぬ顔で答えた。
「そんなつもりはありません。私は泰山様の命を果たすのみ。その途中にたまたまあなたがいただけです。」
「かなうと思ってるわけ?」
ふんと小馬鹿にしたように笑う操に僅かにその顔を僅かに曇らせる。
「あなたと私では格が違います。かなうはずはありません。」
英の答えに操は肩をすくめてひらひらと手を振る。
「じゃあ何、わざわざ滅びに来たの?やめなさい、そんなばかげたこと。あのじいさんだって望んじゃいないわ。」
いかにも決め付けてかかったその口調に英はふっと小さい笑みを漏らした。
「もちろん、負ける気もありません。私は、私のできる限りのことをするだけです。無駄死にしても、ただ逃げても、泰山様は誉めては下さいませんもの。」
「随分・・聞き分けがないのね・・。」
ゆらりと操の体から白い光が立ち上る。ただ、その光はどこまでも暗く、闇に同化しそうなほどであった。その手に闇に染まった光の刃が現れる。それに対して英から仄かにピンクがかった白い光が立ち上る。右手には黒光りする鞭。
「だから、よくお仕置きも受けてましたわ。」
「そっか・・・あなたはマゾだったわね・・。じゃあ、『縛』!!」
「『回避!』」
己を縛ろうとする言霊を受けようとはせずにするりとかわす。今はまだ時間を稼ぐだけでいい。まともにぶつかっていくつもりは英には毛頭なかった。自分の存在全てかけて操をここに足止めする。それが、今の英にできる全て。あとは、言司の将が操を救ってくれる。そう、信じて。
「『裂』!!」
「『護』!」
唸りを上げて襲い掛かる操の刃を英の鞭がいなした。言霊は霧散しきれずに英を襲い、体のあちこちに裂傷が刻み込まれる。
「『斬』」
「『防!』」
言霊が飛び交っていく。それぞれの思惑を含んで。
運命の輪はゆっくりと音を立てて回り始めた。

「漣・・・。」
ゆっくりと浴衣の帯が解かれ、その白い肌が露になっていく。滑らかな肌に激しくなる鼓動を感じながら漣は自分の服も手早く脱ぎ捨てていく。遙は恥ずかしげに顔を背けている。露になった意外と豊かな胸を恥ずかしげに手で覆っていた。
「遙・・見せて・・。」
頬に、睫に、瞼に、唇に、首筋に。あらゆるところに優しく口付けながら徐々に遙を開いていく。鎖骨からゆっくりと舌で辿り、恥ずかしげに掌が去った後の胸の膨らみに優しく口付ける。そして。
「あ・・・。」
つんとした胸の先端に軽く口付けると遙は緩く背を伸ばして震えた。そのままそれを軽く咥え、優しく吸い上げる。
「ぁん・・・。」
それだけで感じてしまうことを恥じるかのように遙が瞳を閉じ、シーツに顔を押し付けた。所在無さげに彷徨う掌は布団をきゅっと握り締める。
「漣・・・。」
「遙・・。」
呼ばれる名前に優しく答えながら柔らかく胸を揉み、舌で撫でていく。まるで壊れ物でも扱うように、優しく、優しく。その度に遙は確実に高まり、息が熱くなっていった。
「ぁ・・漣・・・。」
緩やかにこわごわと遙が快感に身を任せていく。漣が触れるたびにその場所が熱を持ち、体が震える。息が上がり、鼓動が早くなる。それは、今までに感じたことがない感覚だった。
あ・・あたし・・変になる・・・。
耳年増に自慰をしたことはあった。けれど、恐る恐るのそれは何の快感も遙にもたらしてはくれなかった。だが、今のこの行為はどうだろう。漣が自分の肌に触れる。それだけで震えるほどの快感が自分の体を貫いた。あっという間に秘裂がぬるぬるになっていくのがわかる。乳首が固く立ち上がっていく。
「ふぁ・・漣・・漣・・・。」
くちゅ・・・。
「ひ・・ぁああん・・・。」
漣の指が秘裂に潜り込んで卑猥な音を立てた。恥ずかしくてたまらない。そう思うのに声は止まらなくて、漣の背中に縋ってしまう。
「漣・・そんなとこ・・やぁ・・。」
腹を辿った舌がそのまま茂みを辿って降りていく。隠したいのに足は素直に割り開かれて大きく濡れそぼったそこが露にされてしまう。
「遙・・凄い。」
「やだぁ・・・。」
思わず涙声になって顔を隠してしまう。
「いやか?」
そう言いながらも漣の指はそこを開いて舌を潜り込ませる。
「あ・・いやじゃ・・・ああん!!」
いやじゃない・・。そう言いかけた言葉を快感に浚われて逃してしまう。
ぴちゃ・・くちゅ・・ずる・・。
初めての行為。それなのにこんなに感じていいのかしら。あたしって淫乱なんじゃ・・。そんな思いが頭を掠めて消えていく。代わりにいいんだと誰かが諭しているような気がした。漣だから、いくらでも溺れていいんだと。
「漣・・漣・・・。」
ひたすら名前を呼ぶ。それに答えるように襞を柔らかい舌が擽り、愛液を啜り上げて敏感な肉の芽を吸われた。
あぁ・・・溶ける・・・。
体が、意識が。漣に触れられているところから溶けていくような熱に浚われる。そして、その波は唐突に訪れた。
「あ・・だめ・・・・や・・怖い・・怖い・・あ・・ああああっ!!!」
唐突に意識が真っ白になって体ががくがくと震えた。それがいくという感覚なのだと思い至ったのは漣が身を起こして自分の口元を荒っぽく拭っているのをぼんやりと目にしたときだった。
「漣・・・。」
ボーっとして呟く遙の上に漣が覆い被さる。その髪を優しく撫でながら頬に、鼻に口付け、耳元で囁く。
「いいか・・?」
遙には黙って頷くしかできない。これから先の出来事は、不安と期待に満ちた未知の領域だからだ。
でも・・漣と一緒だから・・。
しがみ付く遙の足を割ってその間に漣は腰を収めた。熱くそそり立った肉棒が隠された襞に押し当てられるのを感じて僅かに遙の身に力が篭る。
「遙・・好きだ・・。」
痛みを思いやって漣が囁いた。こくんと頷いて胸元に押し当てられる頬の温もりを感じながらゆっくりと腰を進めていく。
「う・・あ・・・くぅ・・・。」
痛みに眉が撓り、顔が歪む。それでも、遙は痛いとは言わなかった。
漣・・漣・・・
胸の中で呼ぶのはただ一人の名前だけ。
「遙・・。」
ぬるりと熱いものが襞から滴り落ちるのがわかった。今、二人は確かに繋がっていた。
「くぅ・・・。」
「あうっ!」
唐突に、それだけで達するのではないかと思えるほどの衝撃が二人を襲う。
「な・・・。」
「ふあう・・!」
繋がっている場所から、とてつもない熱さを伴ったエネルギーと、快感が二人の体を駆け巡っていた。
「遙・・。」
「漣・・。」
何がなんだかわからないほどの波の中。二人は、ただ、一つになった。

「・・・っはあ・・・く・・・。」
地面に紅い血が滴り落ちていく。由美子は、自分の体がそろそろ限界に近づいているのを感じていた。
だが、それは斎も大して変わるところはない。ぼろぼろのコートはすでに脱ぎ捨ててあちこちに血の流れない裂傷を作っている。その瞳は暗く輝き、由美子を睨みつけていた。
「・・・いい加減・・しぶといな・・。」
「あなたこそ・・。」
血の滲んだ和服の袖を破り捨て、何とか身を起こすと口元に滲んだ血を指先で拭う。
「いい加減・・諦めたほうがいいとは思わないか・・?」
「思いません・・。私は、母ですから・・。」
由美子の言葉を斎が嘲笑う。
「では・・その無償の愛と共に死ね!!『斬』!!」

「『滅』!」
「『護』!!」
ぼひゅっ・・・
「ぁううう!!」
撓る鞭を持った右腕が根元から吹き飛ばされる。血の出ない肩口を抑えながら英はよろりと後退して操を見た。当の操の口元には笑みが浮かんでいる。
「・・・かわいそうに・・痛いでしょうね・・?」
微笑みながら言う操の体には傷一つついてはいない。
最初から勝負にならない。
それはわかっていた。そんなことは期待していない。だが・・・。
「泰山様・・・。」
呟いた英の口もとに柔らかな笑みが浮かんだ。その体に、柔らかいオーラが立ち上る。
「ふふ・・悪いけど・・頂くわね。はぁっ!」
操が一息に距離を詰めて迫る。英にはもう、それをよける気力すらない。それでも、彼女は笑っていた。
「『滅!』」
ボフッ・・・・
操の右手の剣が英の胸をまともに貫く。英は声なき呟きを漏らした。
『泰山様・・・・・』

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