PAST

ピチャン・・・・ピチャン・・・・
ぼんやりと天井を眺める匡子(きょうこ)の鼻先を、天井から落ちてきた湯気が通り過ぎる。
ピチャン・・・・ピチャン・・・・
肩の近くまで張ったぬるめのお湯。
ぬるく張ったわけじゃない。もとは熱過ぎる位熱いお湯だった。
もう、どれくらいこうしていただろう。
白い肌があちこちに擦り剥いた痕や打撲がある。
ところどころ怪我もしていないようなのに紅くなって皮がむけてしまっているところもある。
ピチャン・・・ピチャ・・・・
「・・・ふ・・・・。」
ぼんやりとついた息。
端正な。多分、普段なら『涼しげな』とでも形容されそうな顔はあちこちに擦り傷と青痣。
背中までの栗色の髪は、2時間ほど前まで砂と埃にまみれていた。
・・・・・ピチャン・・・・
「ふ・・う・・・・。」
泣きたいわけじゃない。
なのに、また涙が溢れてくる。
そのうち浴槽がしょっぱくなるんじゃないか・・・。
それほど泣いた。
何もかも、全てが汚く思えた。

会社からの帰り道。
一人暮らししているアパートの途中には公園のそばの寂しい道がある。
いつも通るたびになにやら薄気味悪くて緊張する道を、今日も少し早足で通り過ぎようとしていた。
・・・自意識過剰なのよね。こんなの、普通に通り過ぎてしまえばなんてことはなんだから。
そうは思ってもやっぱり気になる。
少し先の街灯を過ぎればアパートはもうそこだ。
あと少し。
そう思って足を速めた時のことだった。
ガサッ
「え?!きゃあ・・んうううっ!!!むーーーっ!!」
公園の横合いの茂みから突然飛び出してきた何者かに背後からがっちりと捕らえられてしまったのである。その体格から言って恐らく相手は男のようだった。
叫ぼうにも口は真っ先に押さえられている。そのまま公園の中に引きずり込まれようとするのを必死に暴れた。慌てて視線をめぐらせるが誰かが通りかかる気配もない。公園の前の商店はすでに閉店していて誰もいる様子がない。
万事休すか!?
ゴキッ
「うぐっ!」
その瞬間、匡子の肘が男の胸を捕らえたのだ。一瞬男の力が緩んだその隙に匡子は駆け出した。
「だ・・誰かっ!」
悲鳴はいざとなると掠れて遠くへは届かない。
もつれる足を必死に動かそうとする匡子の腕は、その努力も空しくすぐに強い力で引かれた。
「んのやろう!にげんじゃねえっ!」
荒い、怒気を含んだ声。聞いただけで女の身なら身を竦ませるに十分な。
後は自分の身に何が起こったのか匡子にはとっさにはわからなかった。
気がついたら腰と背中が痛い。足も擦り剥いたかもしれない。
とにかく、目の前には臭い息を吐く若い男の顔と夜空。
それを見た途端に顔に激しい痛みを感じた。
「きゃあっ!」
ガッ・・バキッ
「やかましい!騒ぐんじゃねえ!」
ドコッ
「ぐ・・・・げほっげふっ・・・。」
したたかに顔を殴られ、悲鳴と共に腹を殴られた。こみ上げる胃液を押さえようと手を挙げれば抵抗と取られたのかさらに顔に拳が襲い掛かる。
「い・・いや・・いたっ・・やめて・・っやめてぇ・・っ」
痛みと衝撃でわけがわからなくなりながらも涙ながらに懇願する。親に殴られたこともない顔や体が見知らぬ男の手でぼこぼこにされていくことが匡子をショックによる恐慌状態へと陥れていた。現実感はないというのに口の中は切れたのか血の味で満たされていく。
「げほっ・・ごふっ・・。」
血の混じった吐瀉物を地面に撒き散らして匡子は涙ながらに自分の体を庇いつづけた。
こ・・殺される・・・。
その恐怖は徐々に匡子の抵抗を薄くし、遠ざけていった。このまま殴られつづけたら殺されてしまうかもしれない。そう思うと声を出すことすらできなくなっていた。
やがて、痛みとショックに朦朧とし、まったく動かなくなった匡子を見下ろして男は忌々しげに呟いた。
「手間かけさせやがって・・・。」
そのまま、匡子に馬乗りになるとその華奢な体を包むブラウスを引き裂いていく。
ビ・・ビイィィィィィィッ
「あ・・・・う・・・。」
匡子にもはや抵抗はない。痛みに疼く体を力なく投げ出したまま男のなすがままにされていた。
「へ・・へへ・・。おとなしくなったじゃねえか。本当はこうされたかったんじゃねえのか?」
「ち・・が・・・。」
かすれる声はほとんど声にならない。
冗談じゃない。
頭の片隅でそれだけは思う。
誰がこんな男に、こんなところで。
男は匡子のそんな思惑など知る由もない。男にとってそんなことはどうでもいいことなのだ。
この人知れない公園の片隅で狙った女をどれだけ効率よく楽しむか。それが全てなのである。
服を全部脱がすような真似はしない。そんなことをしたら時間がかかる。
だから、男が次にやったことはポケットから取り出したナイフでブラの前を切り裂くことだった。
ピッ
自分の胸の開放感を朦朧とした頭で感じる。
今自分の身に起こっている事実を感覚で捉えてはいても理解はできなかった。
哀れにも、滑らかな腹には男に殴られた痣ができていた。内出血の痕が痛々しく薄暗い街灯の明かりにぼんやりと映し出される。男はそんな腹になど見向きもすることなくブラの下から現れた手に包むには程よい大きさの染み一つない白い乳房を容赦なく掴んだ。
「へへ・・大きさはちょっと足りねえが柔らかくていい感じだぜ。」
舌なめずりせんばかりに言いながら乱暴な手つきで両の乳房を捏ねまわし、乳首を摘み上げる。
「う・・うう・・・。」
相手の体をまったく気遣うことのないその陵辱は匡子の体に痛みを齎し、匡子の唇から小さなうめき声が細く漏れた。
「気持ちいいだろうが。あ?」
男の問いかけに答える気力もない。匡子はただ静かに涙を流し、力なく体を投げ出したままだった。
「反応がないのもつまらねえな。」
一人ごちても止めるつもりはないらしく、男の唇が匡子の乳首を無遠慮に吸った。
ちゅ・・ちゅぱ・・ちゅ・・かりっ
「あう・・っ。」
乳首を噛めば痛みに匡子の体がかすかに震えた。まるでそれを楽しむかのように荒っぽくちゅうちゅうと乳首を吸い、時折かなりきつめに乳首を噛む。匡子の白い乳房は男のぬらぬらとした唾液に汚され、その乳首は望まない愛撫に立ち上がり、赤く腫れ上がっていた。噛まれたために所々滲んだ血までも執拗にしゃぶって男は顔を上げた。
「乳首おっ立てやがって。感じてんじゃねえのか?あん?」
「ちが・・。」
匡子のかすかな反論など男は聞いてはいない。言葉で弄ることで痛めつけて楽しんでいるだけなのだ。
やがて男の手が匡子の茶色っぽいチェックのプリーツスカートを捲り上げた。スカートを脱がすなどしち面倒くさいまねはしない。そのままそばに置いてあるナイフを再び手に取り、ストッキングを切り裂くと性急にショーツも切り裂いてしまう。
びりっ・・しゃっ・・・
「い・・や・・いやぁ・・・。」
なにながら弱弱しい声で首を振っても許してなどくれるはずもなく、ただ陵辱するためだけに少し濃い目の茂みが露わにされた。
「あんま手入れしてねえな?ぼうぼうじゃんか。」
男の言葉に悔しさと恥ずかしさで涙が溢れた。
なぜ・・なぜ、私がこんな・・・。
混乱する頭でそう思っていても陵辱は進んでいく。
痛みと恐怖で強張った足を男は無遠慮に割り開いた。茂みを乱暴に指が弄り、まったく濡れていない襞をいじっていく。
「いた・・い・・・。」
力任せに襞を弄られる痛みにかすかな声が漏れるが男はそれを気にとめることもしなかった。容赦なく蕾を摘み上げ、こりこりとつぶすように摘み上げる。
「でっけえクリじゃねえか。あん?男にしゃぶらせまくってんだろう?」
「ひ・・いた・・や・・・。」
遠慮なしにつままれるその突起からは痛みしか伝わってはこない。匡子の反応に焦れた男は荒っぽく指を膣の中に押し込んだ。
「あ・・あぐぅ・・っ」
引き攣れるような襞の痛みに背中が仰け反る。匡子のそんな悶え苦しむ様を男はただ薄笑いを浮かべながら見ていた。中に押し入った指は容赦なく襞を抉っていく。
「感度わりいなあ。『マグロ』じゃねえのか?そんなんじゃ男できねえぞ?」
「う・・うぐ・・ああぐ・・・。」
そんな・・無理やりされて感じるわけ・・。
言葉で甚振られても男の激しい指の動きにうめき声しか唇からは漏れてこない。いつまでたっても濡れない匡子に業を煮やして男は匡子の両足を肩に担ぎ上げるとその秘裂を無遠慮な舌で弄った。
べちゃ・・ぬちゃ・・・
「いや・・いや・・。」
ただ濡らすのが目的だったのだろうか。その舌は唾液をべちゃべちゃと秘裂に塗りつけるとすぐに離れ、男は自分のズボンの前を弄り始めた。
まさか・・犯される・・・。
まさかも何もない。匡子は自分の置かれた状況に慌てて動かない体で這いずろうとした。
ただ、恐怖だけが頭を支配する。
が、その匡子に男が声をかける。
「逃げようってのか?いい根性じゃねえか。」
「いや・・止めて・・許して・・あううっ!」
這いずる匡子の髪を容赦なく男の手が掴んで引きずる。そのままうつ伏せに引きずった匡子の腰を掴むと尻を持ち上げさせ、男はにやりとほくそえんだ。
「いただきます。」
ふざけた口調だった。
まるでハンバーガーでも食べるような軽い口調で男は言うと匡子の冷たく濡れた襞に怒張を荒々しく突き込んだ。
ずちゅっ・・ずにゅうう・・・
焼けるような熱の塊が肉襞に分け入る音が妙にはっきりと聞こえた。
ピチッ・・・・
準備が十分に施されなかった恐怖に縮こまったままの襞が裂ける音も。
痛みは感じない。
ただ、踏みにじられた何かが崩れていく。
体が、心が冷たく染まっていく。
「おおう。よく絞まるじゃねえか。いいものもってんぜ、あんた。」
男の声ももう聞こえなかった。
ぐちゃっ ぐちゃっ ねちょっ じゅっ
不規則な音が耳を打つ。
男の荒い息遣い。膨れていく欲望。
だが、それは耳に届くことは決してなかった。
「う・・うお・・いい・・・。」
ただ、呆然と空を見上げる。
空には星。
・・・綺麗・・・・。
ぼんやりと考える匡子の体の上で男の動きが激しさを増した。
自己防衛本能で潤いを帯びた匡子の襞が荒々しく汚されていく。
「へっ。なんだかんだ言って感じてんじゃねえか。よかったなあ、強姦で感じるような淫乱で?じゃあ中に思いっきりぶちまけてやるぜ。」
ナカ・・・中・・?
いや・・・・
赤ちゃんできちゃう・・・。
ぼんやりとした匡子の思考にわずかに思考がよみがえる。
同時に、体の内側を冷たい恐怖が支配した。
「い・・いや・・っ・・それだけは・・・。」
「いくぜ・・・っ・・。」
わずかにもがいた匡子のことなど気にとめることなく。
匡子の子宮の奥深く、男は己の欲望を解き放った。

どうやって帰ってきたのかなど覚えてはいない。
気が付くと、ぼろぼろの姿のまま玄関に立っていた。傍から見てもその身に起こった惨劇を予想するに十分な半裸のまま。
玄関を開けて部屋に入ったところでぷつんと糸が切れた。
「あ・・ああ・・・あああ・・・・・。」
ぺたんとへたり込んでうなだれた匡子の瞳からは止め処もなく涙が溢れ落ちる。
「ああ・・・ああ・・・。」
今しがたの状況がフラッシュバックのように自分の脳裏によみがえる。
今・・今・・私・・なにを・・・・
混乱する頭を抱え、髪を掻き毟る。唐突に、とろりと膣からあふれ出る感触があった。
「いや・・いやああああああっ!!!」
唐突に自分の何もかもがけがわらしく感じた。
髪の毛からつま先まで、何もかも。
匡子は半狂乱になってバスルームに駆け込むとコックをひねり、シャワーを頭からかぶった。シャワーのお湯がまだ冷たい水にもかかわらず。
「いや・・いや・・。」
滴り落ちる水でびしょぬれになりながらびりびりになってしまった服を脱ぎ捨て、下着を取り、泥にまみれた肌を晒していく。スポンジを手に取り、ボディーソープをかけると力任せに体を擦っていった。
いや・・いや・・汚い・・汚い・・・。
泥にまみれた肌を。精液にまみれた股間を。傷の上すら構わずに擦りあげ、お湯で流していく。それでもまだぜんぜん足りないような気がしてなおも匡子は自分の体を洗いつづけた。
気が付くと、ボディーソープは半分近く残っていたのが空になり、匡子の体は擦りすぎであちらこちらが紅く剥けてしまっていた。
「・・・こんなに洗ったのに・・・。」
まだ・・汚い・・・。
匡子はそれから、体が冷え切ってしまうまで浴室に座り込んで泣きじゃくったのだった。

匡子のその後を知るものは誰一人としていない。

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