クリムゾン レイヴ9

コンプレックスの種はほんの小さなこと。
醜いアヒルの子は、醜いままでいるのも、美しい白鳥になるのも自分次第。
あなたの中にもあるでしょう?
白鳥の種。

聖鳳高校1年3組。朝の出来事である。
「痲桐秀隆(めきりひでたか)でっす。よろしく♪」
甘いマスクの少年が自己紹介をすると、クラスの半数からは感嘆の溜息が漏れ、クラスの半数からはやっかみの視線が注がれた。
「いい男は葉山だけで十分だっつーの・・。」
そんなぼやきが聞こえる中、当の漣は転校生には全く興味がないかのように机に頬杖をつき窓の外を眺めている。
席につこうと漣の傍を通りかかる秀隆がくすりとすれ違い際に笑った。
「よろしく。『葉山君』」
ぴくりと漣の肩が動く。が、それだけだった。伏せた瞳は前髪に隠されて表情を読むことは適わない。が・・。
「こちらこそ。」
呟いた口元は微かに笑みを浮かべていた。

徐々に日が長くなっているとは言え、冬の夕暮れは早い。5時半を過ぎればもうあたりはすっかり闇の世界である。そんな中、霧島恵は急ぎ足で教室へと走っていた。よりにもよって明日までに家でやってこなければならない数学の課題を教室に忘れたのである。部活の途中で気付いたからまだよかったものの、帰ってから気づいたのであったのではまた取りに来なければならない。
早めに気づいてよかったぁ・・・
そう思いながらも暗い廊下はやはり落ち着かない。早足で1年2組の教室に飛び込むとまっすぐに自分の机を目指す。
「あったあった。これ、忘れたら大変だもんね。」
ほっとしたように呟きながら取り出したノートをかばんに押し込み、入り口に視線を向けて恵は動きを止めた。
「矢島君・・・。」
先日告白されたが振ってしまったクラスメートがそこには立っていた。身長も余り高い方ではなく、お世辞にも痩せているとはいえない。顔もそういい方ではない。だが、恵が彼との交際を断ったのは他に理由があった。
『覗きの常習犯』
矢島孝雄にはそういう噂があった。実際、女子が着替えているのを何回も覗いた前科がある。恵が所属しているテニス部の更衣室の裏でも見つかっていた。
「あ・・あたし、宿題忘れたの取りに来たんだ。だからもうすぐ帰るんだけど、矢島君は?もしまだ用事があるなら教室の鍵、おいとくよ。」
なんとなく焦って取り繕うように話し掛ける恵をよそに孝雄は無言のまま教室のドアを閉め、鍵をかけた。その間もじっと恵から視線は外さない。
「な・・なにするの・・?」
鍵を閉める不穏な音に恵の身が竦む。自然と後退しながら孝雄を凝視した。
「・・ぜ・・・・・んだ・・・・・・」
「・・・え?」
呟くような孝雄の言葉に思わず聞き返す。
「なぜ・・ぼくじゃいけないんだ・・。」
またその話か。
正直うんざりしながら恵は腰に手を当てた。どちらかと言うと鈍重で気が小さい孝雄がそう大それた真似をするわけがない。もし襲いかかったとしても自分の足なら逃げ切れる。
そう踏んだ恵は少し余裕が出てきたのか、ゆっくりと歩きながら孝雄とは反対のドアに向かう。
「しょうがないじゃない。葉山君が好きなんだもの。」
嘘だ。
葉山はかっこいいと思ってもどちらかと言うと恵自身にとっては観賞用である。だが、そう言ったほうが何より説得力があることを知っていた。葉山相手ならかなうわけはないと、男は皆身を引いていくのである。
「僕が・・・あいつに劣るとでも・・?」
「・・・・!?」
恵は一瞬我が目を疑った。間にはいくつもの机や椅子が並んでいる。そして二人の距離は3mはあったはずだった。なのに・・・。
「どうして僕じゃだめなんだ・・。」
そう呟く隆の顔は恵の目の前にあった。その瞳はどんよりと暗く、目の前にあるというのに恵の顔すら映してはいなかった。
「ひ・・・・。い・いや・・っやめて・・・っ!」
唐突に孝雄は恵を抱きすくめた。力をもって振りほどこうとするがびくともしない。その唇が恵に口付けようと近づくのを必死の形相で顔をずらしてよける。唇には当たらないものの、すぐに恵の顔は孝雄のよだれでべとべとになった。
「い・・いや・・やめてよぉ・・・。やめて・・っ!」
殴ろうが蹴ろうが足を踏もうが全く怯む様子のない孝雄に恵はある種不気味な恐怖ら覚えていた。やがて、孝雄の手が恵のセーターにかかると一気にそれを引き裂こうとする。
「いやあっ!」
ブチ・・・ブチブチブチ・・・
硬いウールの毛糸が、いとも簡単にあっさりと引き千切られていく。その下のブラに覆われた胸が露になり、思わず手で胸を隠す。
「きゃあっ!」
胸に注意がそれた恵を孝雄は教室の床に引きずり倒すと、恵の上に圧し掛かって両腕を一まとめにして頭の上で片手で固定する。
「やだ・・やだ・・矢島君・・お願い・・止めて・・・。」
涙混じりの声で恵が懇願するのにも構わずに孝雄の手が白いブラジャーにかかる。
「いやああっ!」
ブチッ!
あっけないほどにブラは孝雄の手にもぎ取られると、恵の形のよい胸が露になった。
「い・・いや・・こんなのいや・・・。やめて・・・っく・・。」
泣き出した恵の懇願を孝雄が聞いている様子はなかった。露になった胸をひんやりとした大きな手が乱暴に捏ねるように揉む。
「ひ・・いた・・痛い・・。」
その乱暴さに恵が思わず悲鳴をあげる。片手にもかかわらず抑えられている腕はびくともしないし、乗っている巨体は恵の体重ではとても跳ね除けられない。恵の中に絶望感が襲った。
「ひ・・ひぅ・・っ!」
ぬめっとした舌が胸に伸びて気持ち悪さに思わず背をそらせる。それを見てはじめて孝雄がにやりと笑った。
「気持ちいいんだね・・?」
「ち・・違う!違うの!!気持ち悪いの!」
必死の否定も当然聞いてはいない。
ちゅ・・ちゅぱ・・ちゅぱ・・ちゅ・・
まるで赤子のように孝雄の舌が動いて乳首と乳房を舐め、乳首を激しく吸いたてる。その勢いは激しくて、かなりな痛みを覚えるほどであった。
「やめて!いやぁ・・!」
身を捩じらせてもがいても帰って孝雄の舌を擦り付ける結果となり、どんどん孝雄が調子付いていくのがわかった。だからと言って黙ってやらせておくわけにもいかない。やがて、孝雄の手がスカートの下に潜り込み、ショーツに触れた。
「や・・やだ!それだけはいや!やめて!!」
恵の絶叫が教室中に響き渡ったそのとき。
カツカツカツカツ・・・・
誰かが廊下を歩いてくる足音が響き渡った。
・・・助かった!!
恵の顔に喜色が浮かび、さらに声を張り上げる。
「助けて!!お願い助けて!!誰か!!」
足音は教室の前に差し掛かった。
これで助かる!良かった・・。
そう確信してドアを見つめる恵の顔がすぐに絶望に染まる。
カツカツカツカツ・・・・
足音は信じられないことに教室の前を通り過ぎてしまったのだ。
「そんな・・・。」
呆然として呟く恵のショーツを孝雄がずり下げにかかった。
「や・・やだ・・!」
足を必死に閉じて抵抗してみるものの、半ば引き千切られるようにショーツは足から抜き去られてしまう。だが、それと同時に両腕が開放され、恵は慌てて身を起こすとばねのように跳ね起き、孝雄の下からすり抜けるように脱出してドアに向かった。抜け出してしまえばこっちのもの。ドアの鍵を開け、外に出ようとする。
ガチャ・・ガチャ・・ッ
「あ・・あれ・・?」
ガチャッガチャッ
レバーを跳ね上げればいいだけのはずの鍵が一向に開く気配がない。焦ってレバーを上下させても空しく音が響くだけでドアは一向に動かなかった。その恵の肩に重い手がかかる。
「ひ・・・・。」
恐る恐る後ろを振り向くと、虚ろな笑いを浮べた孝雄がのっそりと立っていた。
「だめだよ・・。逃げちゃ・・。君は僕のものなんだから。」
「いやああっ!」
滅茶苦茶に暴れて喚く恵を引きずるように仰向けに教壇に押し付けると足を広げて顔の上に持ってこさせる。ちょうど、前転の途中のような格好をさせられて、恥ずかしさに恵は必死で足を戻そうとする。が、足は全く動かないばかりか、体だけがずり上がってこのままでは頭から落ちてしまいそうにもなる。
「いや・・いや・・・。見ないで・・お願い・・。いや・・。」
「可愛いよ・・恵・・。」
いやあっ
恵の背筋に怖気が走った。好きでもなんでもない男から名前で呼ばれ、体を蹂躙される。それこそ死んでしまった方がましだとも思えるようなそんな状況。
そこへ再び誰かの足音が廊下に響く。今度は生徒同士らしい話し声まで聞こえてきた。恵は声を振り絞って叫んだ。
「お願い!誰か助けて!助けてえっ!」
だが、やはり足音は恵の必死の叫びも無視して通り過ぎてしまう。
そんな・・・。
今度こそ絶望に叩きのめされた恵の股間で男が呟いた。
「うまそう・・。」
「ひっ。」
呟きのすぐ後に生暖かいぬめった感触が襞を蹂躙するのを感じて恵の喉から短い悲鳴が漏れた。恵はまだ処女である。雑誌の知識はいくらでもあっても、実際に自分がそんな目にあって何が起こっているのかを即座に理解することは不可能であった。
そ・・そんな・・舐められてる・・・
自分の大事な個所を憎むべき男の舌によって蹂躙されているのを知って恵は吐き気すら覚えた。快感などそこには存在しない。だが、男の呟きは恵を絶望の更なる奥地に突き落とした。
「濡れてるよ・・。僕を受け入れてくれたんだね?」
「ばかなこといわないで!」
孝雄のペニスに処女を貫かれるくらいならバイブにでも捧げた方がまだましだと言うものである。そう思っているのに濡れるわけがない。だが、男は全く気にする素振りもなく自分のズボンのチャックを開放し、そそり立ったペニスを取り出す。
「い・・いや・・そんなの・・はいらない・・。」
自分を引き裂こうとする凶器に少女は慄きながら逃げ出そうと暴れる。その恵の足をぐいと引き寄せて孝雄はにやりと笑った。
「恵、いくよ。」
「いやああ!ひ・・ひぎぃ・・・いた・・いたあい・・・・えぅ・・・」
余りの痛さに引き攣った喉が悲鳴をあげることを拒絶するかのように狭くなる。ぎちぎちと遠慮も会釈もなく凶器は恵の中に押し入り、柔らかな襞を引き裂いていった。
ポタ・・ポタ・・・
血溜まりが音を立てて床に出来上がっていく。それが大きくなるにつれて孝雄のものが深く埋没していく。
「ひ・・ひぃ・・・いや・・いやだよぉ・・・。」
大粒の涙を零して泣く恵にはかまわずに奥まで収まったことを知ると孝雄はどんどん腰を突き入れ始めた。
「ぎゃ・・・が・・う・・・ぁう・・・。」
およそ快感とは縁遠い呻き声が恵の喉の奥から漏れる。その様子を薄ら笑いを浮べて見る孝雄の両手が恵の喉に伸びた。
「な・・に・・やめ・・・ぐぅ・・・」
孝雄の腕に力が篭り、恵の喉を締め上げていく。徐々に紅くなる恵の頬に口付け、唇を奪うと、狂ったような大声を上げて笑った。
「はははははははっ!これで君は僕のものだ!はははははははははは!」
必死にあがく恵の爪が孝雄の腕を傷つける。足をもがかせ、孝雄の手の甲の肉を抉るその動きは、やがて唐突に止まった。
「う・・・ううっ!恵!いいよ!いく・・・!」
恵の手が力なく教壇から垂れるのと、孝雄が恵の中に精液を放出したのはほぼ同時のことであった。

ドスッ
暗闇の中、黒いセーターに黒いスラックスを履いた男が薄い笑みを湛えて立っていた。その頬には、たった今地面と激突した物体が撒き散らしたものが付着していた。
「まあそれなりには・・美味だな・・。」
くくく・・・・
喉奥で笑うと、頬についた脳漿を指で拭い、ぺろりと赤い舌で舐め取る。
「ここの生徒が大体600余名・・・。まあ、まだ楽しめる・・。」
「次は僕にも欲しいな。」
男の背後で少年の声がする。短めの茶髪。洒落たストリートファッション。ただ、笑みだけは冬の刀のように冷たい。
「だったら協力しろよ。今回は僕だけでやったんでね。」
一見優男風の細身の男は、剃刀のごとく薄く危険な笑みを浮べて振り返る。それに対して少年はただ肩をすくませただけで答え。
「まあ、ゆっくりやるさ。まだ来たばかりだしな。」
くっと男が短く笑うと、次の瞬間、二人の姿は闇に溶け込むように消えていた。

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