クリムゾン レイヴ7

花にも、虫を殺すものがあるんです。
ウツボカズラって知ってますか?
あれ、花弁の変形したものだそうです。
虫を香りで誘い入れ、粘液で捕らえて捕食してしまう。
そうそう、美味しそうに見えて毒をもった果実もあります。
お気をつけあれ・・・。

ピーンポーン・・・・
緊張感が流れる中、唐突に鳴った玄関のベルに誰もが身を竦ませて玄関のほうを振り向いた。
「まさか・・警察か・・?」
ありえない話ではない。東達追っかけのカメラ小僧が、事務所に取り入って真理恵のスケジュールを事細かに調べ上げていたのは周知の事実だからだ。他のカメラ仲間に聞けばすぐにわかる。
緊張の面持ちで東がドアフォンを取った。
「はい?」
『あのー、あたしぃ、ピンキーハウスから来た出張なんですけどぉ。』
「・・・は?」
ドアから聞こえてきたのは明らかに若い女性の声。それもかなり若そうだ。唐突の、しかも身に覚えのない事に東の頭は凍りつく。
「えーと・・なんですって?」
『だからぁ、出張エステのピンキーハウスなんですぅ。とにかく、開けてもらえませんかぁ?』
こんな時に出張エステなんて頼む馬鹿はいないだろう。首を捻りながら東は後ろを振り返った。
「おい、出張エステなんか頼んだか?」
「んなあほな・・・。」
揃って首を横に振る男達に再度首を傾げて東はドアフォンに向き直った。
「なんかの間違いじゃないの?」
すると、ドアの外で悲壮な声が響く。
『えー、だってここだって聞いたんですよぉ?シャンテ703号ってここですよねえ?お代も貰ってるからお仕事して帰らないと怒られちゃいますぅ。』
「金も払ってある?」
ますます持って不思議な事情に東は頭を捻った。
おかしい。まず、誰も呼んではいない。それに、金を払ってあるなどありえない。さらに少女の声が響いた。
『とりあえず寒いんでぇ、入れてもらえませんかぁ?もう、ドアの前なんですよぉ。』
「はぁ!?」
ここはオートロックマンションである。勝手に入るなどと言うことはできるわけがない。
誰か住人が入る隙に入ったのか・・。
そう考えながらも東は返事をした。
「間違いだと思うけどね。ちょっと待って。」
ドアフォンの向こうで、弾む声で少女は礼を言った。

実際、その少女が金で買えるんだとしたらいくらでも払う男がいるだろう。そのぐらいの美少女だった。唯一引っかかるとすれば、年齢がどうやっても15、6にしか見えないと言うことだけで。東は開けた瞬間に少女に見惚れた。艶やかな長い髪は腰まで。猫っぽい勝気そうな顔立ちで、赤い唇に薄い笑みを浮べて自分を見上げている。
「えーと・・・・。」
東が少女に圧倒されて何か言うより早く、少女は口を開いた。
「『中に入れて』」
何かがそれを判断するより早く、東は少女を中に導きいれていた。それを不思議に思う余裕すらない。
「おい、誰・・・。」
「え・・・?」
ずかずかと入ってきた少女を見るなり他の男たちも痴呆のように呆気に取られて少女を見る。
「間違いなく4人ね。じゃあ、『お仕事をさせて』貰うわ。」
どこか冷たい。冷たいと言うよりも表情がない。そんな声だった。だが、男達にそんなことを考える余裕はなかった。目の前で、美少女が惜しげもなく服を脱ぎ始めたからだ。
「え・・あ・・・。」
押し留めようとするつもりか喉から漏れた声は言葉にならない。ぼんやりと男達が見ている前で、少女は全裸を晒す。抜けるほどに白い肌。華奢な手足に掌にちょうど納まるほどの胸。切れ上がったお尻。
まるでしなやかな黒猫がそのまま人型を取ったかのような印象を受ける裸体がそこに晒された。薄い笑みを湛えて少女が東の首に手を伸ばし、緩やかに絡めた。
「『楽しいこと、しましょ?』」
男達の意識の中で、ぞわりと何かが脈打った。それは、常識とかそう言ったものを超えて脳内に占められていく。「欲望」という名の汚物がただ、男たちを突き動かした。

「ん・・んぐ・・・ふん・・ん・・・。」
ちゅ・・じゅる・・じゅじゅ・・・・れる・・・くちゅ・・・ぬちゃ・・
膝をついて座り込んだ少女の下で男は蜜が滴る秘裂を舐め上げていた。ちょっと上げたお尻を貪り食らう別の男。皺を舐め上げ、唾液でどろどろにしながら菊座に突き入れていく。口に東のものを咥えてしゃぶりながら、右手で別の男のものを扱いていた。
「いくときは言ってね?ちゃんと飲んであげるからぁ。」
舌なめずりせんばかりに淫靡な笑みを浮べて少女が言うと東のものを喉奥で扱き、舌を絡めながら吸い上げる。
「う・・ああ・・っ・・いく・・いくよ・・っ」
その攻撃にあっけなく東が達し、吐き出した液を美味しそうに少女が飲んでいく。今度は背面座位で男を受け入れながら口にペニスを咥え、大きく広げた足の間を別の男に舐められる。
「んん・・ん・・・れろ・・・ちゅ・・じゅる・・・いい・・すごぉい・・・。」
本当に「すごぉい」のは男の方であった。前を舐めている舌の動きに連動して襞がうねるように締め上げ、動かなくてもまるで擦り上げているかのような快楽が与えられる。すぐにでも達してしまいそうな襞の動きに口を利くことすらできない。それは咥えられている男もそうであった。普通に動ける範囲はとうに過ぎていると思う。からみつくように・・とは言うが、この舌は実際に絡み付いているのではなかろうかと思う。唇と舌と、そして喉の奥までが別々の動きで扱きあげる。二人の男はほどなくして白濁を放出した。
「じゃあ、あなたはここにいれて?」
四つん這いになった少女が自らの尻を割り開いて男の前に晒す。そこはすでにどろどろと濡れ、ひくひくと物欲しげに蠢いていた。誘われるままに突き入れると、信じられないほどの締め付けとうねりが襲う。そこに少女が呟いた。
「あん・・・前からも欲しいな。」
俺たちは隷従している。
東が頭の片隅で思ったころには、目の前で少女がサンドイッチ状態で犯されていた。いや、その表現は正しくないだろう。男たちはあくまで奉仕をさせられている。これだけ突き入れ、放出していると言うのに、どうにも少女が一方的に楽しんでいるようにしか見えないのだ。だが、抗うこともできない。なぜか出したはずの精液が一滴も溢れない秘裂に舌を這わせ、少女の放出する尿を飲み干すにつけ、その感覚だけが高まる一方で。少女は男たちを確かに導き、快楽へと誘っていると言うのに。
どれほどの時が過ぎたろう。
すでに窓の外は暗闇が支配していた。そして、もはや動くこともできない男達の上で少女はその裸体をひたすらくねらせていた。
「も・・もう・・・。」
勘弁してくれ・・。かすれた声が男達の唇から漏れるにいたって、少女はやっとその動きを止めた。
「もう、終わりなの?」
こくこくと激しく男達が頷く。
「本当に『終わりなの』?」
再度の問いかけにも同じようにがくがくと頷いた。
「も・・もう・・・血しか出ない・・・。」
ぐったりとソファにもたれかかりながら言う東に少女はにやりと笑った。
「じゃあ、清算するわね。」
「・・・それは・・どういう・・・?」
にゅる・・と音を立ててペニスが少女の膣から吐き出される。疑問を投げかけようとする男の一人に歩み寄ると、その首に手をかけた。
「ふふ・・・・真理恵ちゃんが呼んでるわよ・・。逝く所は別だと思うけど。」
少女の唇が鮮やかな笑みを象る。男は、驚愕に顔を引き攣らせ、いかんともしがたい寒気を覚えて身を震わせた。
「何故・・それを・・・。」
知っている・・?とは続けることができなかった。足元から徐々に男の体に霜が降りていき、声も出せぬ男の体を覆い尽くした。数秒の後、恐怖に歪んだ顔の男は、凍れる彫像となる。
「ひ・・ひ・・・・ひぃ・・・。」
その様子を見て逃げようにも体が動かない。逃げろと本能は訴えるのに、何かに捕らわれたように体が言うことを聞こうとしないのだ。
少女が別の男に歩み寄る。
「ふふ・・・バイバイ・・・。」
なぜかその言葉は無邪気に響く。少女の唇が男のそれに薄く重なる。
「ひ・・・。」
喉でとまった悲鳴は凍りついたまま出てこない。少女が唇を離すと同時、真っ青に凍りついた肌に徐々に湧き出るように霜が降りていった。
残る二人の男に視線を向けると、少女はにっこりと微笑んだ。
「ごめんね。一人も逃がせないの。だから、もう少し待ってて?」
それは東に向かって放たれた言葉であった。東の背をどうしようもない恐怖が駆け巡る。
こ・・殺される・・。
その現実は徐々に徐々に近づきつつあった。同じように凍死させられていく仲間を見ながら、確実に近まるそのときを思い知る。やがて、少女の手が自分の頬にかかった。
「お待たせ。」
普通の状況ならば喜ぶべき美少女からの微笑。だが、今の東には死の微笑にしか見えなかった。
「た・・たのむ・・やめ・・・。」
動かない唇から必死で振り絞られる懇願に少女は優しげな笑みを浮かべてみせる。
もしかして・・・。
ほんのわずかに抱いた淡い希望を少女の言葉が粉々に打ち砕いた。
「真理恵ちゃんもそう言ったわよね?」
「ひ・・ひぃ・・・。」
とてつもない冷気が自らを押し包むのがわかった。徐々に手足が痺れて動かなくなる。見れば、足先から霜が降り始めていた。
「ゆっくり・・ゆっくり・・・。あなただけは時間をかけて凍らせてあげる。運がよければ、誰かが見つけてくれるかも。」
にっこりと微笑む少女が離れても、凍りついたように体は動かない。
「苦しいわよ?徐々に息ができなくなっていくの。大丈夫。肺が凍りついたころには心臓も凍りつくから。全部凍る前に死ねちゃうわ。」
恐怖に震える東の前で服を身に纏いながら少女は楽しげに説明している。
ば・・・馬鹿な・・・なぜ、こんなことが・・
抱いた疑問に答えは出ない。ただ、目の前の少女が真理恵と自分たちのことを知っているのだという程度のことしかわからなかった。
「頼む・・助け・・・。」
「そうやって来ない助けを待ちながら死んでいきなさい?いいじゃない。あなたは3人も仲間がいる。真理恵ちゃんはたった一人だったのよ?じゃ、バイバイ♪」
手を振って去っていく少女が玄関をでて、ドアが締まる音が虚ろに響く。
だ・・誰か・・誰か・・・・・・
「ひ・・・ひっ・・・うう・・」
動けないまま子供のように泣く東の脳裏に、なぜか真理恵の笑顔が浮かんで消えた。
翌日、警察が事情聴取に東のマンションを訪れると、部屋の中で明らかに凍死した遺体が4つ見つかった。不可解なことに、そのうち一つ、東の死体だけは、脳の半ばで凍結が止まり、いまだ他の場所は霜が纏わりついたままだったと言う。その死に顔は恐怖に彩られ、これ以上はないほど歪んでいたと言う。
日本の警察の歴史に、迷宮入り事件が一つ増えた瞬間だった。

「やだ、いたの?」
マンションの塀にもたれるようにして立つ漣の側に静かに操が歩み寄った。その顔には悪戯を見つかった子供のような悪戯っぽい笑み。
「ん。多分、今日だと思ってさ。」
なんでもないことのように言いながらも瞳の奥に気遣いが見えて操はくすりと笑った。
「心配してくれてるの?」
「お前も余計な心配するだろ。」
ぶっきらぼうながらその口調は優しい。漣の前に立ち、操はその首に腕を回した。
「ねえ、キスしてくれる?」
黙って漣が掠めるようなキスを落とす。一瞬の出来事に操がぷっと頬を膨らませた。
「ねえ、全然足りない。」
小さなため息を一つつくと、漣の唇がゆっくりと操の唇を塞いだ。何度も啄ばむ労わるようなキス。白いものがちらつく夜の闇の中、その細い体をぎゅっと抱きしめた。
「足りないよ・・。全然足りない・・・。」
口付けの合間に操が呟く。その髪をグローブをした手が優しく撫でた。まるで同志を労わるように。
「とりあえず行くか。」
舞い降りる雪の中。何時の間にか二人の姿は何処かへと消えていった。

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