クリムゾン レイヴ20

「は・・・はぁ・・・・。」
ポツ・・・
息も凍るほどの寒さの中、汗が道場の板に一滴滴り落ちた。
「ふふ・・もう終わり?」
汗だくの遙に対して、澱はその顔に余裕の笑みを浮かべている。
力の差はあるはずだった。だが、遙にはどうしようもない差も存在していた。
それは、経験。
言霊を使い慣れる以前の問題として、遙は人を傷つけることになれていない。
『人を傷つけるのはよくないこと。』
それは、最低の倫理として遙を縛っていた。例え相手が敵であろうと、傷つけることができない。ましてや滅ぼすなど、常識の外だ。
どうしよう・・。
逃げ回るのにも限界がある。いまや遙はその限界に達しようとしていた。使い慣れない言霊。延々と追い掛けてくる敵。殺せない自分。
どうしようもないジレンマが遙を焦らせ、更なる消耗へと追いこんでいく。
まるで、出口のない檻の中で猫に甚振られるねずみのようだった。
殺そうと思えばいつでも殺せる。そんな余裕の中で爪に引っ掛けられ、確実に傷つけられていく・・。
冗談じゃない。
怖気に身を震わせると澱がその唇を引き上げた。
「来ないなら、こっちからいくわよ?」
ひゅっ
僅かな残像を残して澱が迫る。
「『来ないで!』」
動きそのものを避けるのは間に合わない。遙は叫ぶことで澱の進路を阻もうとした。が。
「『超えよ』」
言霊の壁をするりとかいくぐり、目の前に立つ女に慌ててあとずさろうとする。その手を、ひんやりとした手が掴んだ。
「きちゃった♪『逃がさないわ』」
「はうっ!や・・やあっ!『はな・・』!?」
振りほどこうと言霊を解放しようとしたその唇が唐突にふさがれる。
「ん・・んんぅっ!」
首を振って逃れようとするも、巧みに両手を封じられ、抱きすくめられては経験の浅い遙では逃れようがない。しかも相手は口付けの隙間を縫って言霊を仕掛けてくる。
「『黙って』ふふ・・楽しみましょ?」
言葉を封じられては肝心要の言霊を使うことすらできない。
「んー!!んっ!」
必死に身を捩り、首を振る遙の乳房を服の上から澱が掴んだ。
「あら・・意外とせくしぃな身体なのね。ふふ・・楽しませてもらうわ?」
そのまま遙を押し倒し、さらに深く口付けながらその体をゆっくりと弄っていく。舌を奥まで伸ばし、抵抗しようとする口内を思う様蹂躙する。甘い唾液を飲み干し、そして送り込んで嚥下させる。
「ん・・んん・・・ちゅ・・れる・・・『動いちゃダメよ』」
過剰な色気が含まれた声に、遙は身の自由をまったく奪われてしまったことを知った。力の差を隙で埋めていく。まさに、澱の言霊の使い方はそんな感じであった。
い・・いや・・そんな・・漣・・・
澱の手がセーターをたくし上げ、白いブラに包まれた豊かな胸を露わにする。緩やかに首を振って抵抗の意思を伝えるものの、そんなものは一笑に伏されてしまう。
「ふふ・・その顔・・とっても可愛いわよ?もっといじめたくなっちゃう・・・。」
遙の頬を白く長い指がなぞる。そして・・。
プチッ
前のホックを外すとブラの下から白く張りのある胸がまろび出る。そのつんと尖った先端に指を触れ、澱はくすりとほくそえんだ。
「かわいい。」
こりこりと先端を摘み上げ、逆を口に含む。するとびくりと遙の体が震え、その背中が伸び上がった。
「感じてるのね?そう・・もっと『感じて』」
言霊がなくとも遙の陥落はたやすかっただろう。そう思えるほどに澱の愛撫は巧みだった。遙の乳首を含み、ちろちろと舌の先端でバイブレーションを与えるようにしながら裾から持ち上げるように優しく揉みあげていく。そうしながら片手は太腿をゆっくりと優しく撫でまわし、徐々にスカートの中に侵入させていく。
「ん・・ん・・・ぅあ・・・あふ・・・。」
涙をぽろぽろと零しながらも遙には感じることしかできない。こうしている間も漣は戦っているのにと思っても身体が言うことをきかないのだ。
「かわいいわ・・。ここはどうなっているかしら・・?」
聞かれなくても遙にはわかっていた。
くちゅ・・
ショーツの上から指で押されたそこは、染み出したもので澱の手を汚すほどに濡れていた。
「あら・・可愛い顔していやらしいのね?」
含み笑いを伴った揶揄に真っ赤になって顔を背けてしまう。だが、次の瞬間には目を見開いてのけぞることになる。
「あ・・あううっ!!」
横にずらしたショーツの脇から指が入り込み、すでに腫れ上がった遙の肉の芽をこりこりと摘み上げたのである。
「ここ・・弱そうね?」
くすりと笑いながら澱の指がそこから外れ、再び太腿を撫でる。
一瞬物足りなさを感じて遙はさらに頬を染めた。
「もっと・・して欲しい・・?」
相変わらず乳首はこりこりとつままれている。耳元で囁かれている声に思わず頷きそうになって遙はかろうじて堪えた。
「意外とがんばるのね?」
くすくすと笑いながら澱の手がぐっしょりと濡れて重くなったショーツを脱がしていく。ひんやりとした空気が茂みに触れ、思わず遙は身を震わせた。その遙の太腿を、容赦なく澱の手が割り広げていく。
「あ・・ああ・・や・・・。」
抵抗はまったく形にならない。澱の前に、べったりと愛液で濡れた秘裂が大きく割り開かれて露わになる。ひくひくと物欲しげに震える入り口も、固くつんと尖りきったクリトリスまでも全てが冷たい空気の中に晒される。
「このままだと風邪引いちゃうわよねえ?でも・・ふふ・・このままじっと見とくのもいいかしら?・・あらあら・・どんどん垂れて来てるわよ?はしたない子ね?」
澱の言うとおり、いやだと思うのに、遙のそこはどんどんと蜜が溢れ、道場の床を汚していく。その様を澱は実に楽しげに見つめていた。
「や・・やあ・・・・ああっ!」
いや・・いやなのに・・。
つんと澱の指が襞に触れるとそこから溢れる快感に思わず声を上げてしまう。そんな遙の様子を楽しむように澱は胸に、襞に指を這わせていく。だが決して核心には触れようとはしない。焦らすだけ焦らし、弄ぶだけ弄んで遙を狂おしいほどの快楽の淵に追いこんでいく。
「ふふ・・どう・・?欲しい?もっと気持ちよくなりたい?」
いや・・だめ・・・。
そう思うのに身体は更なる快楽を求めて暴走する。かろうじて留まった理性も、もはや風前の灯だった。
「欲しい?ねえ・・頷かないとあげないわよ?」
「ああんっ!!」
きゅっと乳首をきつく捻られ、引っ張られる。痛いはずなのに腰にずんと響く快感が薄皮を剥ぐように理性を奪っていった。
も・・ダメ・・欲しい・・・
「ねーえ?もっと・・気持ちよくなりたい・・?いきたい・・?」
ああ・・漣・・・・
「う・・ぁやあ・・・あん・・」
僅かにもぐりこんで入り口を擽る指に遙の理性は砕け散った。もはや理性の欠片もない、曇りきった瞳で遙はこくりと頷いた。

「う・・ん・・・ふ・・」
口付けの合間。鼻から抜けるような吐息が操から漏れた。その身体はしっかりと斎に抱きすくめられ、露わにされた胸が揉みしだかれる。
「ん・・・またあたしを染める気・・?」
首筋に這わされる唇に身を震わせて操は小さな声で斎に問う。湧き上がる瘴気が操の肌からじんわりと侵入しようとするのに鳥肌が立った。
「今度こそ・・間違いなく連れて行く。」
「・・そんなことしても・・あたしはあんたのものにはならないわ。」
「関係ないな。傍に置いておく。」
スカートの下にもぐりこんだ手がショーツを引き千切った。その布の残骸を見ながら醒めた瞳で斎に問い掛ける。
「あたしのことが好きなの?」
「・・・そうかもな。」
低い声で答えながら、何時の間にか取り出した己の男根を操の襞に宛がう。僅かな愛撫でも、操のそこはしっとりと湿っていた。そのまま一気に押し込めていく。
「う・・ぁ・・・。」
苦しげに操の眉が撓み、細い息が漏れる。だが、それも僅かな間だけで。
「愛してるのは、漣なの。」
「聞きたくない。」
男の腰が容赦なく動いて女を突き上げる。湧き上がる瘴気でその身を全て染め替えようとするかのように激しく。
「操・・・。」
己の名を呼ぶ斎を冷えた操の視線が一瞥した。そして。
ドスッ・・・・
「・・・・ぐ・・・・。」
「・・・あたしたち・・永く敵でいすぎたのよ・・・。」
「み・・さ・・・・」
空虚に斎の唇が動く。その背中から、操が使う白い刃が突き抜けていた。
「・・・あなたが・・葉霊のままだったら・・・いいえ。それも無駄ね。だってあたしは・・漣に出会ってしまったのだもの・・・。」
「み・・さお・・・・・。」
崩れかける斎の唇に操のそれが静かに重なった。まるで、労わるように。赦しのように。
そして、操の言霊が響く。
「『滅』」
ボフ・・・ッ・・・サラサラサラ・・・・・
斎の肉体を形作っていたものが内側から崩壊し、激しく瘴気を噴出させる。そしてそれは、静かに流れ出ていった。
「バイバイ・・・。斎・・・。」
操の瞳が道場へと向く。感傷に浸っている暇はなかった。
「漣・・・。」

「ふ・・ぁ・・だめ・・だめぇ・・・」
ちゅ・・くちゅ・・・じゅる・・じゅ・・・
「口ばっかりねえ?こんなにとろとろにしてて。んふ。さっきから何回いったかしら?」
遙の股間に顔を埋めながら澱が揶揄する。
澱が言うとおり、先ほどから何度いかされたかわからない。それでも澱の執拗な愛撫は止まる事なく、今も胸を手で弄られながら秘裂を舐めしゃぶられ、クリトリスを吸われる度に腰が戦慄いていた。
や・・やぁ・・漣・・・漣・・
頭の中ではダメだと思うのに、身体は澱に翻弄されるまま感じて喘いでいた。白い肌に汗が浮き、艶やかに光っている。
そうしながらも、徐々に、徐々に瘴気が身体を侵そうとしていることも遙は感じていた。なのに、どうしていいのかまったくわからない。
「ふふ・・そろそろいただこうかしら・・。刹の言うとおり、なりたての巫女なんて他愛ないものよね?」
くすくすと笑いながら澱が遙に身を重ねる。遙の唇に蜜に塗れた唇を押し当て、舌で弄るように口付けるとにんまりと唇を引き上げた。
「ふふ・・・じゃあ、いただいちゃうわね?恨むなら、未熟な自分を恨みなさい?」
な・・に・・・?
不穏なその笑みにぞくりと背中が粟立つ。いやな予感が胸を占めるのに動くことさえかなわない。
な・・に・・あたし・・どうなるの・・?
不安げな遙を一瞥すると、澱は魅惑的な身体を覆っていたボンテージを脱ぎ捨てて、その肉感的な姿態を遙の目の前に晒した。遙の前に立つと、自らの秘裂を指で割り開いて見せて微笑む。
「ふふ・・見える?私のここ、あなたを欲しがってこんなに涎たらしてるの。楽しみねえ・・。だってあなたってとってもおいしそうなんですもの。」
澱の言葉通り、割り開かれたそこはべっとりと濡れ、光っていた。まるで何かを取り込もうとするようにひくひくと蠢いているのまでが見える。
恐怖に慄く遙の傍に膝を突くと、遙の秘裂に己のそれを当てて、くすりと笑った。
「じゃあ・・いただきます。」
「や・・め・・いや・・いや・・・!!」
もうだめ・・漣!!
ぬめる秘裂が伝える熱と、身体が冷えるほどの瘴気に遙が目を瞑ったとき、唐突に道場の扉が開いた。
「遙!!『離れろ!』」
「うあぅ・・っ!!な・・葉霊ですって!?」
え・・・?
唐突に自分の身体の上から消え去った重みと声に遙はぼんやりと周囲に視線をめぐらせた。
「まったくあんたまで使ってたとはね。『滅』!!」
「う・・・がぁあああああああっ!!!」
蟠っていた瘴気が一気に消え去った。そして、あきれたような顔をしてその人物が遙の前に立った。
「漣は?」
操・・・?
やっとその人物が誰かを見極めて遙の瞳からぽろぽろと涙が零れる。その遙を、操は腰に手を当てて見下ろした。
「まだ安心できないのよ?泣いてる場合?で、漣はどこ?」
「漣・・き・・え・・・」
まだ言霊に縛られているせいかうまく言葉にならない。その遙に操はふうと溜息をついた。
「澱って言うのは刹の瘴気の一部が具現化した存在なの。だから確かに滅ぼしたからって言霊が解けることはないんだけど、あんたなら簡単に振りほどけるはずよ?」
「う・・・。」
操の厳しい口調に萎縮しそうになりながらも考えをめぐらせる。だが、どれだけ力を入れてもその呪縛が解けることはなかった。
「あたしは手伝わないからね。一人でがんばってよ。その間に漣がどうなったのか探るから。」
そんな・・・。
縋るような遙の視線に操は冷たい視線を投げかける。
「言葉の根源には思いがある。言霊を使うなら当然知って然るべきことよ。その体たらくで漣のところに行こうなんてあたしが許さないわ。」
そう・・そのとおりだわ・・。
厳しい言葉の中に操なりの温もりを感じて遙ははっとする。
あたし・・・結局甘えてたのよね・・。
操の姿が見えた途端にこの状況をどうにかしてもらえると無条件で思っていた。だが、みんなそれぞれぎりぎりのところで戦っているのだ。自分の面倒など見ている余裕はとてもない。漣ですらああもたやすく捕らえられてしまった。なら、自分のことはせめてできる程度に強くならないと・・。
考える遙の傍を離れて操は道場の中央に座した。その操の身体からゆっくりと気が立ち上り、漣おい場所を探り始める。それを見て遙も瞳を閉じた。
言葉の根源にはそれに基づく思いがある・・。基づく思い・・。漣・・。
透き通る蒼白い光が遙の身体からゆらゆらと立ち上る。それは弱いながら確実に勢いを増していった。
漣・・あなたにあいたいの・・・助けになりたいの・・漣・・・
徐々に強くなった光が、遙の身体を甘く所なく包んでいく。思いの強さに比例していくようにそれは輝きをまして。
「『あたしを自由にして!助けに行くんだから!!』」
一瞬の煌きが稲妻のように走った。その様子を感じ取って操の唇が僅かに笑みを刻む。そして・・。
「・・は・・・はぁ・・はぁ・・・。」
溢れ出した光が消えた後、そこに息切れをしながら微笑んでいる遙の姿があった。
「で・・・できた・・・・。できたわ!!」
確実になった感覚に喜び勇んで立ち上がる遙に瞳を開いて操が立ち上がって微笑む。
「上等よ。じゃあ、早速行きましょ。見つけたわ。」
「ええ!」
勢いよく頷く遙の手を取って操の言霊が響いた。
「『道よ、開け』!!」

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