クリムゾン レイヴ2

今日も気分よく踊って飲んだ。やっぱ一日楽しくないとな。
キーを手の中でチャリチャリ言わせながら礼二はコインパーキングへと向かった。時間は午前3時。冬の夜はかなり冷える。後ろにはいつもつるむ3人がいる。例によって今日は誰かの家でまた酒盛りだろう。
「おい、雄太。コイン出せよ。持ってんだろ?」
スキンヘッドの男がポケットから無造作にコインを取り出して礼二の手の上に乗せる。その中から支払いを済ませると、すでに3人は車に乗り込んでいた。
「誰んちに行く?」
キーを回し、エンジンを始動させる。ご自慢のJZX100チェイサーツアラーVがそのエンジン音を響かせた。
「礼二んちでいいだろ。女、いねーんだろ?」
「悪かったなあ。」
篤の言葉に礼二がむっとしたような声を出す。
「まあ、あれだったらさ、また明日あたり狩でもしようぜ。皆最近女に縁がないのは一緒だからよ。」
恵一の言葉にそれぞれに頷く。
「そうだな。最近ちょっとしけた女ばっかだし、ここらで上玉が欲しいよなあ。」
「ま、穴がありゃなんでもいいんだけどな。」
せせら笑う篤に雄太が同意して頷く。車を発進させると、慣れた裏道をどんどん進んでいく。警察がいない裏通りなど、いくらでも把握していた。やがて、いつも女を犯すのに使う港の近くに差し掛かる。
「・・・ん・・・?」
唐突に止まった車に話に興じていた3人が怪訝そうに礼二に注目した。
「どうした?」
「あれ・・・見ろよ・・・。」
港から幹線道路に出る割に狭い路地。左に曲がれば幹線道路で、そこから礼二の家はすぐなのだが、右の方に人影が映った。ゆっくりと歩いていくそれは、白いオーバーを着た女の姿。
「なあ・・・予定変更して今日にしねえ?」
舌なめずりでもしそうに篤が提案した。もちろん、それに反対するものは誰もいなかった。
車は、ヘッドライトを消して女の後を静かに追っていく。ほぼクリープ現象のみで近づくのでさほどうるさくはないはずではあるが、それにしても女が気づいて振り向く気配は全くなかった。
「上玉だといいな。」
「この際何でもいいや。つっこめりゃよ。」
酔いに任せて口々に言う3人を抑えて礼二が車を止めた。顎で女のほうをしゃくる。
「・・・へえ・・・。」
女は、いつも自分たちが使う袋小路の方へと曲がっていったのだ。
「手間が省けてありがてえよな。」
「行くか。」
袋小路の入り口に車を止め、静かに4人は降り立った。女は、奥に止めてあるワンボックスの側に立ち、車をじっと見ていた。
「よう、ねーちゃん。こんなとこで何してんだ?」
「こんな夜中に一人でいると襲われちゃうよ?」
「なんなら俺たちと遊ばない?」
口々に言う男たちに女が静かに振り返った。
「・・・見つけた・・・・。」
男たちを見て薄く笑みを浮べたその女は、彼らが3ヶ月も前に犯した木野原涼子だった。
「へえ、俺たちを探してたんだ?」
もちろん、数多くの女たちを犯した彼らに涼子をすぐに思い出せというほうが酷な話である。彼らのお気楽な頭の中では、以前に犯した女が余りの気持ちよさに自分たちを忘れられず、探しに来たという程度のことしか考えつかない。
後は簡単だった。
ワンボックスの後部のドアを開けると、女は自分から乗り込んだ。薄ら笑いを浮べ、男たちが乗り込み、ドアがしまった事を確認すると、羽織っていたオーバーを脱ぐ。
「うわ・・・やる気満々じゃん・・。」
思わず雄太が呟いたのも無理はない。オーバーの下は全裸。
「遊びましょ?」
紅い唇が薄い笑みを象る。まるで鋭利な刃物のような危うさを孕んで。
そう、宴はたった今、始まった。

「う・・あう・・すげ・・・。」
「・・・ぅあ・・・っ!」
車の窓が熱気に曇る中、狂宴は繰り広げられていた。ただし、前回とは状況がかなり違う。涼子は口で茶髪の礼二のものを扱きながら両手でそれぞれ篤と雄太のものを扱く。それぞれ数回いかされたのか、涼子の手と口元は精液ですでにどろどろであった。膝立ちに近い状態の涼子の股間には、金髪の恵一が顔を埋めてぴちゃぴちゃと涼子の秘裂を舐め啜っている。その手は自分のものを握り、ひたすら扱いている。それでも数回いったのか、車のシートは精液でどろどろであった。
そう、涼子は口以外の場所に男を誰一人として受け入れてはいなかった。手で、口で、秘裂から湧き出る愛液の齎す香りで男たちをいかせていたのだ。
「んふ・・上手・・・」
どちらかといえばおとなしめな容姿の涼子からは想像もつかないほどの淫靡な笑みがその唇から漏れ、恵一の顔を透明な液体で汚していく。
「も・・俺・・だめだ・・。」
礼二の腰が震えた。同時に、他の3人も切なげな呻き声を上げる。
「うぁう・・・っ!」
「ううっ!」
何度目だろう。またしても白濁は4人のペニスから吐き出された。礼二が吐き出した白濁をさも美味しそうに涼子が飲み下していく。余すことなく飲み下すと、さっとその口を礼二から離し、精液でどろどろになった両手を二人から外した。
「・・満足した?」
手についた精液をぺろりと舐めながら尋ねる涼子に男たちはそれぞれ頷く。突っ込んでもいないがこれだけいかされればこれ以上しようという気は到底起こらなかった。
「そう・・よかった・・。じゃあ、未練はないわね?」
「え?」
涼子の言った意味がわからずに礼二は間抜けにも尋ね返した。
ドスッ
・・・・ヒュウ・・・・
自分の肺から空気が漏れている音だ・・・と礼二が認識したときには遅く。
「バイバイ。」
女がうっすらと笑うと、掴み出された心臓は女の手の中でぐちゃりと音を立てて崩れた。
「ひ・・・ひいっ!」
「う・・あ・・・ああ・・・。」
腰を抜かしたように喘ぐ男二人は置いておいて、礼二の心臓から滴り落ちた血を浴びて呆然としている恵一に涼子の視線が降りた。
「あ・・・・。」
ぼこっ・・・ジャクッ・・・
無造作に振り下ろした涼子の手が恵一の頭蓋を掴むと、一息に握りつぶした。びくんと一回大きく震え、恵一の生命活動が停止した。
「た・・・たすけ・・・。」
雄太は車のドアを開けることに成功した。車の荷室に潜り込もうとする篤の足をぞっとするほど冷たい手が掴んだ。
「ひ・・ひいいいいっ!」
「だめよ・・逃げちゃ・・・。無銭飲食は犯罪よ・・?」
食わしてやったのは俺たち・・・
そう言い掛けた篤の口に拳が無造作に押し込まれた。目の前で女が微笑む。ぞっとするような冷たい笑みを浮べて。
「お勘定、頂きます。」
ボクゥ・・・バキッ・・
顎が一息に外され、拳を捻ると、篤の首があらぬ方向に曲がった。
ジョオオオオオ・・・・・
尿の匂いが、車中に広がる。
「だ・・誰か・・助け・・・。」
下半身裸の情けない格好のまま逃げる雄太の方を、冷たい手が掴んだ。
「ひ・・・ひゃあああっ!」
情けない悲鳴をあげて雄太が派手に転ぶと、全裸の女が月明かりの下、妖しく微笑んで自分を見下ろしていた。
「ふふ・・・後は・・・あなた一人・・・・。」
「ひ・・ひい・・・。」
ぐしゃっ!
喉につまったような悲鳴は瞬時に掻き消えた。女の踏みしめた片足が上がると、そこには踏み抜かれた心臓部分がへこんだ死体が一つ転がっていた。
「く・・・くくくくくくくく・・・・・あはははははははははっ」
誰もいない港に、女の哄笑が響き渡る。いかにも満ち足りた、狂気に染まった笑い。
その女の背後に、何時の間にか黒ずくめの男が佇む。
「満足したか?」
男の低い声が静かに早朝の港に流れる。
「ええ、とっても。」
狂った瞳に笑みを湛えて涼子は頷いた。さも満足げに。
「そうか。」
男は、呟くように答えた。そして、音も立てず一歩前へと進む。
ドシュ・・ッ
「え・・・・・?」
唖然とした涼子の唇から紅い筋が一筋。
「満足したんだろう?お代だ。」
グシュ・・ズリ・・・・
背中まで突き抜けていた黒い切っ先が耳を塞ぎたくなるような音を立てて抜けると、支えを失って涼子はその場に屑折れた。
ひゅう・・・ひゅう・・・・
「な・・んで・・・。」
「毎度あり。」
絶命寸前。疑問を口にして大量の血を吐く涼子を残し、男は闇に溶けるように姿を消した。

「くっそ・・・・間に合わなかったか・・・。」
黒ずくめの男が消えて20分後。すでに冷たくなった涼子の傍らに一人の男が片膝をついていた。黒い皮ジャンに黒い皮のグローブ。ブラックのスリムジーンズをはいたその男は一見少年にも見えた。
「・・・利用された挙句にこれじゃ・・報われねえよな・・。」
ワンボックスカーをちらりと一瞥するが、あえて近寄りはしない。中の状況は大体想像がつくからだ。
「次こそは食い止めてやる・・。」
少年は呟くと、人の気配に駆け出した。そろそろ呼んでおいた警察がくる頃だろう。恐らく迷宮入りの通り魔殺人か何かになるのだろうが。見つかる前に姿を消さないとまずい。
「よっ。」
一声かけると、少年はありえない跳躍力で倉庫の屋根に上がる。
「ごめんな・・。」
眼下に小さく呟くと、少年は、白みかけた朝に残された夜の闇に消えていった。

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