ご主人様と私

文:彩音
画:がそんみほ様

「やだ……やだっ。変態っ」
「変態? ご主人様と呼べ。やっぱり立場がわかってないなあ」
 綺麗な眉がぴくりと動いて、貴斗があたしの顔を覗き込んだ。
 ドキッとする間もない。その手が動いて、あたしのワンピースを胸元までズリ下ろしてしまう。瞬間、かっと顔が熱くなるのを感じた。きっとあたしの顔は真っ赤になっているのにちがいない。
 ズリ下ろされたワンピースの下から白い余り飾りけのないブラジャーが顔を出した。
「へえ。結構地味なのつけてるんだね」
「じ、地味って」
 恥ずかしさにあたしは椅子に縛り付けられたままめちゃくちゃに暴れた。
「放して! もうやめてったら! こんなのいやっ!」
「いや? 躾だろ。僕は君の主人なんだからね。当然だ」
 暴れるあたしなんかまったく構う様子もなく貴斗はさらに机から2本の手錠を取り出した。
「ひっ……な、何するのよっ」
 目を細めて笑うなっ。
 嬉しそうに舌なめずりなんかするなっ。
 こんな風にされちゃうのは嫌ーっ。
「何って、言うこときかない奴隷を言うこときけるようにするんだ。さっきからどれだけお仕置きしてもさっぱりお行儀がよくならないからね」
「そ、そんなことしなくてもっ。あ、やだっ! 放して! 変態っ!」
「だからご主人様だって言ってるだろ?」
 暴れるあたしの足を貴斗は軽々と持ち上げると椅子の肘掛に固定されているあたしの手にそれぞれ抱えあげるような形で繋いでいった。
 ということはつまり、あたしの格好は……。
「いやーっ!! こんなの、いやっ」
 大きく開かれたまま固定されてしまったあたしの下着は、ひらりと貴斗がスカートをめくっただけで露わにされてしまった。ブラジャーとおそろいの地味なショーツが隠しようもなく丸見えになってしまった。
「い……や、嫌……。やめて……」
 あ。まずい。
 迂闊にも涙が出てきてしまった。
 だって、こんな風に扱われるのなんて嫌なんだもの。
 そりゃ、嫌われてるかも、とか、思ったけど。こんな酷い扱いを受ける覚えはない。
「だから、ちゃんとした口のきき方をしなさいって言うのに」
「っく。ご主人様……止めてください……」
 すごーく悔しいのに。
 とっても悔しいのに、あたしはそう言うしかなかった。
 すると貴斗が満面の笑みを浮かべる。
 何がおかしいのよ。
 人をこんな目にあわせといて。
「まみあ、かわいい」
「なっ……なっ……」
 余りのことにあたしは金魚のように口をパクパクさせてしまった。人を泣かせといてかわいいって。どういうことよーっ。
 もっと普通のシチュエーションで言ってよ、それ!
「いいから解いてくださいっ」
「いやだ」
「ちゃんと言ったじゃないですかっ」
 そうなのだ。
 膝を屈して要望どおりにしたんだから今度はこっちのいうこと聞いてもらわなくちゃ。
「あたしのこと嫌いだからってこんなことしなくたっていいじゃないのっ」
「は? 嫌い?」
 涙が止まらない目でそう叫んで睨んだあたしに、貴斗は一瞬きょとんとした顔をするとすぐにふっと笑った。

続く

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